業界レポート

美容室業界レポート

<レポートの概要>

激しい過当競争となっている昨今の美容室業界で、どのように生き残っていくのか、各種マーケティング調査資料を駆使し、今後の展開の方向性を探ります。

1.美容室の競争は、どれほど限界に来ているのか。

・市場規模は?生き残れる美容室は?
・全国の美容業市場は約3倍の飽和状態
・間違えてはいけない!美容業は接客業

2.23区別、成功しやすい立地はここだ!

・インターネット上で検索できる全ての美容室をチェック。
・人口の割に出店数が少ないエリアはどこ?

3.東京の美容室チェーン店のライバル関係は?
・大きなチェーン企業はどこ。
・中堅企業で、5店舗以上経営しているサロンはどこ。

4.タイプづけ
・今の美容室利用実態(顧客による多様化。ランダムに取った街頭アンケート結果の発表)
・美容室にはどのようなタイプの店があるのか。
・どのようなタイプが生き残ることが出来るのか。
・受けるメニュー構成は?
・計画停電で分かった固定客の大切さ

5.これからの美容室事情
・今後の美容室はこうであるべき!?

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1.美容室の競争はどれほど限界に来ているのか。

・市場規模は?生き残れる美容室は?

美容業は約1.46兆円、理容業と合わせると2兆円以上の規模となり、サービス業の中でも大きな市場規模がある業界です。地域的な特徴については、東京都は他の大都市に比べて約5倍~10倍といった非常に大きな規模があります。府中市、調布市など東京都の23区以外の地域だけでも、  約710億円ものとなり、大阪市などの政令指定都市を上回る市場規模があることがわかります。このような優良な市場に対して、概ね同じような市場規模の飲食業等に比べて比較的設備投資を要さないため、参入障壁は比較的低い業界であると考えられます。


・全国の美容業市場は約3倍の飽和状態

全国の美容師数は、H21年までの10年間で約1.3倍になっています。また、美容室は約1.1倍になっています。平成17年以降、その増加数の勢いは弱くなってきていますが、新規開店率は常に廃業率を上回り、競合店が参入し続けている状況には変わりません。

平成21年には、9,779店鋪が開店し、7,527店鋪が廃業しました。21年の美容室数が221,394店鋪であるので、現状の約3.4%が廃業したことになります。100軒美容室があれば3~4件は廃業する状況です。一方、この数字は届出ベースです。自宅で開業している美容室の場合は、ほとんど営業をしていなくても廃業届を出さない場合があると考えられます。
実際のところ、約22万軒のうち、どれくらいがまともに稼働している状況でしょうか?ここで試算をしてみます。
まず、平成21年の経済センサスによると、全国の美容業の事業所数は、176,157件数です。221,394店鋪のうち、約79.6%が1企業、すなわち約8割が1企業1店舗であることが分かります。従業員数は482,191人です。美容師数が453,371人であるので、28,820人(約6.0%)が美容師ではない従業員がいることも分かります。
次に消費について調べます。22年度の家計調査年報によりますと、1世帯あたりの美容室関連の消費金額は、年間24,832円です。これは、カット、パーマ、その他の美容サービスという項目を合計した金額です。エステなども入っていますが、店販部分の金額が入っていないので、代わりに、これを美容室での支出金額と「仮定」します。
23年現在の全国の世帯数は、51,951,513世帯なので、これを掛け合わせると、129,005,9970,816円です。約1兆3,000億円ですので、前述の市場規模の説明(約1.46兆円)とほぼ同等の数字となり、大きく間違えていないことが分かります。
全国で約1兆3,000億円の売上高が上がっていますが、これを店鋪数223,645店鋪で割ると、5,768,338円となり、1店鋪の平均売上高は年間約580万円という低い数字になってしまいます。上記の数字によると1店舗あたり約2名の美容師がいる計算になるので、二人で年間580万円の売上高は低すぎる売上高です。自宅で、夫婦で営業といっても実際には厳しいと考えられます。存続を考えるには少なすぎる数字です。
では、実際に健全に営業出来ているサロンはどれほどあるのでしょうか。売上高に占めるお給料の割合から、実際に稼働している店鋪数の予測をしてみます。
当方のコンサルティング経験からすると、一般的に従業員の給与は売上高の約35%程度のお店が多いです。全国の美容室に勤める従業員の給与の合計(試算)は、約1兆3,000億円の35%であるので、4,550億円となります。従業員数が482,191人ですので、一人当たりのお給料は年間約94万円!ということになってしまいます。かなり少ない金額です。
賃金センサスや民間の調査資料によりますと、美容師1名あたりの1ヶ月の給与(総支給額)の平均は、約23万円、年収にして約280万円です。全体で一人あたり年間94万円しか支払う能力がない経営環境において、実際には280万円の支払いが起きている、すなわち約3倍は支払われているので、稼働している店鋪は約1/3ということになります。約22万軒ある美容室のうち、きちっと利益を出しているのは、約7.3万店鋪と想定されます。
店舗の数は需要の約3倍であり、本当に厳しい市場環境にあると言えます。競争は限界に達していると言わざるを得ない数字です。
一方、実際のところ、地域によって差異があることも肌感覚で分かります。人口が過疎化しているエリアでは明らかに美容室が飽和状態となっています。かつて、埼玉県北部の某美容室で商圏内の競合店の観察調査をしたところ、稼働して競合と呼ばれる店舗は10店舗で、そのほか、インターネットの電話帳に載っているが、営業していないと思われる店舗、または、お客様が来た時だけ開店するような店舗が37店舗もありました。
出店の勢いは少し緩みましたが、店舗が増加する傾向は変わりません。これから出店するサロンは、まさしく勝ち残りをかけて出店するのです。
同時に、「出店場所」の的確さが成功の条件であることは言うまでもありません。大きく都道府県別に出店状況を見ると下記の様になります。(平成17年度)

都道府県別に見て、1事業所あたりの人口が最も多い県は、神奈川県であり、唯一、1事業所あたりの人口が1,000人を超えます。首都圏では、神奈川県はまだ出店余地があるということです。次いで奈良県が2位です。人口は青森県と近い水準の140万人を少し超えたくらいですが、美容室事業所数が約1,200も少ないので2位となりました。滋賀県も同様の傾向を示し3位となっています。実際は、大阪や京都の美容室に吸引されていることも考えられますが、他の県に比べると比較的競合関係が緩い県と言えます。
全国の平均が722人ですので、上位11位までが平均に比べて1事業所あたりの人口が多い県となります。その他の県は飽和度が高い県と言えるでしょう。
首都圏では、神奈川の他、千葉・埼玉が単純に出店に適している県であると言えます。ちなみに東京都23区部の美容業事業所数(22年度)は、10,271事業所です。23区の人口(22年度)は、8,949,863人であるので、1事業所あたり人口は約871人になります。東京都全体で853人なので、区部の方が、少しだけ出店余地がありそうです。
人口と事業所数だけ見た場合は、以上のような考察ができます。

・間違えてはいけない!美容業は接客業

美容業は、小売業や飲食業など他の業種に比べて、サービス対象である顧客と近距離で接する時間が長いことが特徴です。

<平均的な接客時間>
●美容:カット約30分 ~ 、パーマ・カラー:約1~2時間
●マッサージ・エステ:約30分 ~ 1時間
●飲食:約5分 ~ 10分

このように顧客との接触時間が長いがゆえに、施術技術とともに、個々の美容師(スタイリスト)の接客能力(コミュニケーション能力)が来店に大きな影響を及ぼすと考えられます。同時に店舗イメージが重要視されており、店舗の物的デザイン(空間や空気感・雰囲気)も来客数に大きな影響を及ぼします。
単なるサービス業と捉えると、3倍の飽和状態かも知れません。複数の美的要素が加わることにより、客単価が高まり、市場が膨らんだりするのも、この業界の特徴であるといえます。
現在は、技術力・商品力・空間力の上に、近年は「セラピー」要素が加わっています。この部分がないと単なるサービスに終わってしまい、飽和状態=価格競争の消耗戦に加わることとなります。

「セラピー」要素の付加とは「健康的・精神的充足」を享受することです。90年代のバブル崩壊、21世紀に入ってのITバブル崩壊、世界同時多発テロ、リーマンショックなど、この20年間は過去に考えられなかった大きな危機が実現となりました。これらが原因による景気の減退、所得の減少、雇用機会の減少は人々に大きな「不安と心配」を与えました。それまでの横一線の消費行動はなくなり、自分たちの実力・収入に合わせた消費、失敗しない消費に焦点が当たることとなりました。現在では、東北地方に起きた東日本大震災、タイの大洪水など、未曾有の天変地異も起き、人々の不安感は益々増長しています。アメリカやヨーロッパの国々の国債の価値が下がってきていることも大きく気になります。
現在、美容業を利用するお客様も、失敗したくないニーズは強いものがあります。多くの消費者はネットで比較し、失敗しない情報を集めて店舗に行きます。この、情報収集の段階で重要となってくるキーワードが「精神的な癒やし」と「自己啓発的な言葉」であると考えられます。毎日、不安な日々を過ごす人たちにとって、日常生活で癒される場が必要です。また、自己の責任が問われ、自分の力で世の中を渡っていかなければならないと勉強に励む人が増えているように、自分自身を高める、変化できる場所も必要です。この2点を同時に充足させることができるのが「美容室」であると考えられます。
ヘッドスパ、マッサージなどのリラクゼーションメニューが充実し、精神的な癒しを充足できると共に、パーソナルカラーなどのサービスを受けたり、「婚活」のヘアスタイルを研究したりと、どんな風に着飾れば自分が活かせるのかなどの「自分みがき」も勉強できる業態へと変貌してきています。

2.23区別、成功しやすい立地はここだ

・インターネット上で検索できる全ての美容室をチェック。

前述の美容業市場の考察から、東京都内、特に23区部の市場の重要性が確認できました。そこで、23区内には、どのような美容室があるのか、網羅的に調査することにしました。
株式会社匠技研の多大なる協力を得て、「ホットペッパービューティ」「ビューティナビ」「髪まど」、その他、インターネット電話帳、地域の美容室ポータルサイトなど、インターネット上で検索できる23区すべての美容室をリスト化しました。また、DMを発送したり、直接電話をかけたりし、存在しないサロンを削除しながら店の存在も確かめています。
最低限の情報として、美容室名、郵便番号、住所、電話番号、店舗の種類(ホームページやグーグルの店頭の写真から判断して、昔からあるおばちゃんサロン、ファミリーサロン、トレンド系サロンなど)を入手し、さらには、URL、店長の名前、カット料金などの付加情報も加えていきました。

これらの調査によりますと、ネット上で確認できた23区内の美容室数は、8,664店舗でした。事業所統計によると東京都23区部の美容業事業所数(22年度)は、10,271事業所です。全てが1店舗ではないのですが、約8割のサロンをカバー出来ています。
それらの内訳は以下のようです。人口とも比較し美容室の密度も示しています。

もっとも美容室が多い区は「渋谷区」(927店舗)であり、次いで「世田谷区」(830店舗)、 「大田区」(538店舗)となりました。4番目は「港区」(508店舗)と「江戸川区」(508店舗)が同数であり、6番目は「練馬区」(468店舗)でした。
一方、人口に対する美容室の密度では、「渋谷区」がダントツの1位で、次いで「港区」「中央区」「千代田区」「豊島区」の順になります。
人口の割に、渋谷区、港区は有名店などもあり、美容室が密集していることでも理解できますが、中央区や千代田区など、美容室が少ない区でも人口が少ないので密度は高まります。特に中央区には、「銀座」があり、多くの美容室が出店しています。
商業エリアで、意外と密集度が低いのが「新宿区」です。世界最大の交通の接結点で、かつ、小売の販売額も大きい新宿区ですが、美容室の密度となると、23区の平均値(人口÷店舗数:985.9店)と大きく離れていません。(新宿区の美容室密度は、881.4店)
渋谷区や港区のように「新宿区にわざわざ美容室に行く」という、おしゃれなイメージは少ないかもしれませんが、圧倒的な昼間人口がありますので、意外と見過ごされている地域かも知れません。

・人口がある割に出店数が少ないエリアはどこ?

さらに細かく出店に適した地域を探っていきたいと思います。インターネットで探すことが出来る23区すべての美容室の中で、住宅地で美容室の店舗数が多い「江戸川区」「杉並区」、美容業のメッカ「港区」、池袋があり美容ニーズも強いと思われる「豊島区」の4エリアに絞って、考察していきたいと思います。
ここでは、店舗の出店地を㈱匠技研のタクミマップを使って、地図上にプロットします。そして、その背景に、ターゲットが沢山住んでいるか分かる加工をしたいと思います。
仮に、今回のターゲットを25歳~34歳の女性とします。その女性達が沢山すんでいるところが濃くなるように、メッシュ(500m四方で囲まれた範囲)をかぶせて、ニーズのあるところに店舗があるかどうかを調べました。これらの年代をターゲットにするならば、以下のポイントに出店したほうが、その利便性から売上高が確保しやすいと言えます。

(1) 江戸川区


江戸川区内の出店集中エリアは、JR平井駅周辺、都営線東大島駅周辺です。一方、内部の住宅地エリアにも散らばって美容室が沢山あることが分かります。また、西北から東南にかけて走る道に美容室が点在しています。
これらを避けたエリアでターゲット人口密度が高いエリアがあります。2番目まで濃いメッシュの中で、2店舗以下の出店地は(a~f)の6箇所あります。

(2) 杉並区

杉並区では、中央線沿線の各駅周辺で美容室が多くなっています。西荻窪、荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺の4つの駅周辺に集中しています。また、江戸川区に比べて、おばちゃんサロン(赤)が少ないことが特徴です。駅周辺は、ファミリー型サロンやトレンド発信型サロンが密集しています。江戸川区は内部の住宅地にもサロンが点在しましたが、杉並区では、少し離れると美容室は少なくなる傾向があります。
店舗以下の出店地は(a~d)の4箇所あります。

(3) 港区

<夜間の人口と美容室の立地>

<昼間人口と美容室の立地>

港区は、オフィスや商業施設が多く、昼夜間人口比率489.0%であるので、夜間人口と昼間人口の2種類の地図を作成しました。
夜間に、25~34歳の女性が多く居住しているエリアは、南麻布、麻布十番の周辺です。このエリアでは、西麻布まで北上するとトレンド型の美容室が点在しますが、南麻布にはほとんど美容室が存在しません。

次に、昼間人口で検討すると、25~34歳の女性が多く働いていると思われるのは、西新橋界隈です。地域柄、おそらくこれらのターゲット層は、飲食店に勤める女性たちであることが推測されます。銀座や新宿には、これらのお仕事をされる女性をターゲットとしたヘアメイク中心のサロンは多く存在しますが、新橋は少ないのではと思われます。「金春芸者~新橋芸者」の伝統を次ぐ、この周辺の飲食業界の女性たちのヘアメイクニーズは意外と低いのかと考えさせられます。

(4) 豊島区

豊島区では、池袋駅周辺のターゲット集中エリア(池袋2丁目~3丁目)と、JR大塚駅周辺のターゲット集中エリア(北大塚、南大塚)には、サロンが的確に出店しています。池袋駅周辺はトレンド発信型サロン、大塚駅や巣鴨駅周辺には、ファミリー型(普通)のサロンが多く出店しています。
豊島区では、25~34歳の女性は、駅から少し離れたところに住む傾向があり、それらの周辺には、それほど多く美容室は存在していません。具体的には以下のポイントです。

3.東京の美容室チェーン店のライバル関係は?
・大きなチェーン企業はどこ。

これまでは、各地域内でどのように美容室が出店しているのかを検討しました。それでは、企業単位で見た場合、どのように展開されているのでしょうか。企業ごとの出店場所の傾向を知ることにより、その企業の狙いを探ってみましょう。
全国的に多くの店舗を持っている企業は下記の通りです。

2010年売上 (百万円) 2009年8月~2010年7月決算

1 阪南理美容 28,000
2 アースホールディング 16,948
3 アルテサロンホールディングス 16,811
4 田谷 12,668
5 キュービーネット 10,314
6 カットツイン 5,206
7 エムワイケー 4,332
8 日鳥大和 4,248
9 ソシエワールド 3,887
10 アポロ 3,815

上記の企業のうち、関東を中心に展開している「田谷さん」「アースホールディングさん」「アルテサロンホールディングスさん」について、ホームページより店舗の住所を整理してみました。

①TAYA

平成23年11月22日現在

②アースホールディング

平成23年11月22日現在

③アルテサロンホールディング

平成23年11月22日現在

東京都内では、見ていただいたように、3つの大手チェーン店は、東京都内に概ね44店から51店舗と、50店舗前後出店したところです。これらの店舗をタクミマップを使って地図上で表すと次のようになります。

TAYAの出店地

アースの出店地


アルテサロンホールディングの出店地


3チェーンを重ねてみる


地図上に店舗をプロットして分かることは以下のような点です。

<TAYAの出店の特徴>
●比較的、網羅的に出店しているが、世田谷区や目黒区といった東京の西南部を中心に店舗を展開しており、葛飾区や足立区といった東北部の出店は少ない。(北千住のみ)
●東京都東部の江戸川区の出店は少ない。
●京成線沿いには出店していない。
●東武東上線沿いには出店していない。
●西武新宿線沿いには出店していない。
●日暮里・舎人ライナー沿いには出店していない。
●意外と、京王線沿いの出店も少ない。(府中など)

<アースの出店の特徴>
●中央線、総武線といった東西ラインの沿線が強い。
●また、品川区、目黒区の出店が多い。山手線沿い。
●京成線沿いにも多い。
●日暮里・舎人ライナー沿いには出店していない。
●東武東上線沿いには出店していない。
●西武池袋線沿いには出店していない。

<アルテサロンホールディング出店の特徴>
●TAYA同様、本部に近い世田谷区や目黒区といった東京の西南部に店舗が多く、葛飾区や足立区といった東北部の出店は少ない。
●中央線沿いの出店には力を入れている。
●西武新宿線沿いの出店は活発。
●東急沿線上の駅前には、バランスよく出店している。
●東武東上線沿いには出店していない。
●西武新宿線沿いには出店していない。
●日暮里・舎人ライナー沿いには出店していない。

これらの特徴から言えることは、、、
●ある程度、住み分けが見られる。特にアースとアルテサロンホールディングでは、中央線以外では
割とバッティングが少ない。
●いずれのチェーンも未出店の沿線がある。

新宿駅より東側の中央線沿いの競合状況は激しいです。特にアースとアルテサロンホールディングでは、中央線の多くの駅前でバッティングし、厳しい戦いをしています。一方、その他の沿線では、ある程度の住み分けも見られます。
例えば、西武池袋線沿線には、アースは出店していませんが、アルテサロンホールディングは活発に出店していたり、山手線の内側の総武線沿線には、アルテサロンホールディングスの出店はありませんが、アースは活発に出店したりしています。
同じく、アースは千葉方向の総武線沿線にも力を入れており、亀戸、平井、新小岩などに出店していますが、アルテサロンホールディングスの出店は少ないです。
3チェーンともに出店していない沿線は、東武東上線、日暮里・舎人ライナー沿いです。また、西武新宿線沿いでは、アースが1店舗出店しているのみです。

3つの大きなチェーンはどのチェーンも素晴らしい経営力を発揮し、着実に店舗を増やしています。これだけの店舗数を維持することは、並大抵の努力ではないです。それぞれのオーナーが人格を磨き続けてお客様を魅了し、その吸引力によって、今でも多くの人が集まって来ています。
バブル経済崩壊後の失われた20年でも、生き続け、多くの雇用を生み出してきた、これらの店舗に感謝を申し上げたいと思います。

・中堅企業で、5店舗以上経営しているサロンはどこ。

それでは、その他の店舗はどうなっているのでしょうか。ここでは、任意に選んだ区(港区、渋谷区、新宿区、豊島区、江戸川区、中野区、杉並区、江戸川区、足立区)に店舗を出している企業で、5店舗以上の店舗を出店している企業の名前と店舗数を示したいと思います。(外部からの調査ではオーナーが分からないので、インターネットで調査して店舗名が同じ店舗をピックアップした)

・5店鋪以上経営しているサロン名(一部抜粋)

この区域内で見つかる美容室をインターネットで見つけ、調査してみると、全国規模で5店舗以上だしているサロンは約120社でした。そのうち約40社を上記のようにピックアップしました。120社あるうち、20店舗以上の出店をしているところは、約20社です。美容室は22万店舗あるといえども、20店舗以上、グループとして出店している企業は極端に少なくなります。

4.タイプづけ

・今の美容室利用実態(顧客による多様化。ランダムに取った街頭アンケート結果の発表)

①美容室にあったらいいサービス・設備

ここで、ランダムなデータではありますが、美容業についての利用実態を知る街頭アンケートの結果の一部を案内します。アンケートの時期は同時にとったものではなく、1年~2年のタイムラグがありますが、都内の美容ニーズの一端を覗くことができます。

上記は、4つの街でランダムに取った街頭アンケートの結果の一部です。美容室にあったらいいメニューや設備、システムを答えていただいたところ、ヘッドスパのニーズが比較的どの駅前でも高いことがわかりました。続いてネイル、メイクとなります。ここでも癒やしメニューの代表であるヘッドスパの潜在ニーズが高いことが分かりました。

②美容室に行かなくなった理由

次に、ずっと通っていた美容室に行かなくなった理由(失客の原因)をさぐる質問を投げかけると、選択肢で最も多かったのは「スタイリングが思い通りではなかった」となりました。やはり、基本的なセンスとテクニックは重要ということです。次いで「担当者が居なくなった」、「引越し」と物理的にどうしようもない理由が続きます。しかし、最大の要因は「その他」の中に隠されていました。
その中身は、「いろいろ掛け持ちされて嫌」「長い時間、放って置かれた」「話題が合わない」「モノを売られる」「時間の融通がきかない」「迎えられた感じが薄い」など多様な理由が多いです。しかし、これらの答えをまとめてみると、「目の前の一人のお客様への無関心」という言葉が当てはまります。お客様が本当に求めていることを察知しようとする姿勢が崩れたときに、お客様は去っていくようです。当たり前なのですが、仕事に追われるスタッフは意外とこの感度を落としているのかも知れません。本気で接客すれば防げるものかと思われます。
また、最近見られる傾向では、「熟女の浮気」です。実は最近、一部のエリアではポスティングの効果が極めて高くなることがあります。一般的には、1,000枚配って1人来店していただければ普通と言われていますが、先日、千葉では800枚配って9人(1.13%)、その他のエリアでもそれ以上の2.3%のレスポンス率となったことがあります。こられるお客様の年代は様々ですが、最近目立つのが、60歳代のチラシでの来店です。その要因は、「今までのところも不満ではないが、せっかく綺麗なチラシが入ったので」「遠くの行きつけのサロンにずっと行っていたが最近、面倒になり、近くに見つけたかった」などの理由で入ってきます。
変化を求めていると同時に、高齢化による地域密着の重要性が増しているということです。じわじわと高齢化は進んでいますが、体はきつくても、おしゃれは便利に行いたいという「ニーズの根底」が見えてきました。

 

・美容室にはどのようなタイプの店があるのか

ひとことで美容室と行っても、いろんなタイプのお店があります。主要ターゲットにより、その様子が大きく変わると思われますが、客単価と「トレンド感 VS 癒し感」でおおよそのポジショニングマップを作成しました。

・どのようなタイプが生き残ることが出来るのか。

現在の市場の趨勢から見ると、美容業界の市場は大きく二極化しています。類似している業界では、ファッション業界も二極化しています。ファッション業界では、以前のように、日本のメーカーが、国内の原料で、国内の縫製工場を使って製品にし、それを、各地域の小売店に卸すという仕組みは完全に崩壊してしまっています。たった20年間の出来事です。バブル経済がはじけたことによる、強い価格志向がそうさせていますが、価格の高いモノは売れず、よく似た商品の中国製の商品に市場を奪われました。また、在庫を抱えると動かないので、SPA(ユニクロに代表される)という業態が中心になって、「卸売」という形態が衰弱しました。現在、衣服の90%以上は中国などの海外生産ものです。
一方で、洋服にこだわりを持っている消費者は、ジャケットやコートなどのアウターには、価格以外の価値観で商品を購入しています。「いいものは高くても買う。」 景気が悪くなっても、ルイヴィトンなどの海外の一流ブランド品の売上が崩れにくいのもこの意識を持っている層が確実に存在するからです。(国産の高価格商品は、海外ブランドとの競合に負けてしまったが、一部の根強いファンによって現在も存続しているブランドは多い)
さらに、価値観が分かれば、見た目、中国製の同じような商品に負けないブランドもあります。そういうところで有名なメーカーは、「鎌倉シャツ」などがあります。シャツというシンプルなアイテムですが、高品質の原料は確実にキープしながらも、トレンドを入れながらこまめに生産し、店舗に供給しています。これは「シャツ」という単体アイテムに特化したから出来る仕組みです。沢山のアイテムを揃えれば、資金不足と人材不足で、管理しきれないところでしょう。
では、美容業界に目を向けると、やはり、ファッション業界と同様、価格対応で、1000円カット、2000円カットという業態が繁栄し続けることと思われます。しかし、ファッション業界と異なるところは、美容業は、モノの提供ではなく、サービスの提供ですので、「時間」の価値は平等です。安売りも高価格サービスも、それほど賃金に差があるわけではありませんし、1時間6000円は10分1000円です。従って、その時間に見合ったサービスができていれば、「価値」が伝わるということです。
また、美容室のお客様は、基本的に「綺麗になりたい」という強い願望を持っています。その強さと可処分所得との相談で、行くサロンが決まっている感じです。アンケートや市場調査などの経験的から、価格志向のお客さま6割、非価格志向のお客様は4割といった形でしょう。
6:4に別れますが、中間的なサロンはこれから、益々厳しくなるのは確実であると思われます。非価格志向のお客様は基準が厳しいので、中途半端なサービスの店舗には行きません。この4割のお客様をめぐって、「トレンド発信型サロン」や「トータルビューティ志向型」の店舗が雌雄を決する形になると考えられます。

・計画停電で分かった固定客の大切さ

2011年3月11日の大震災の後の計画停電には、多くの事業者が困惑させられました。火力への切り替えや、節電努力などにより、計画停電もすぐに解除になりましたが、停電で営業できなかったサロンは数多く存在しました。その中でも業績に響きにくかったのは、お客様からの予約を確実にとっていたサロンです。きちっと次回予約をとっていたサロンは、お客様に電話をかけて、予約の変更に応じてくれることが多かったと聞きます。一方、ショッピングセンターなどに入っていて、フリーのお客様中心で、次回予約を取っていないサロンは、計画停電中の業績は惨憺たる結果と聞いています。(地域の百貨店では、13時~17時などに停電が入ると、一日中お客様が来ないという状況でした)改めて、固定客のありがたさ、次回予約の大切さが分かりました。
次回予約は、予約時にポイントの特典をつけたり、価格を割り引いたりすることによって、ある程度その比率を上げることは出来ますが、基本的には、お客様とスタイリストのコミュニケーションがなければ成立しません。そのコミュニケーションの元になるのが、「ビューティプラン」の提案です。半年や1年間、そのお客様と、どのようにお付き合いするのかを確実に考えておく必要があります。実際には、店舗全体で次回予約率が80%のサロンも存在し、その原動力は、上位顧客に対する、確実な「ビューティプラン」の提案と聞いています。
社会保険に入ること、就業規則を作って、法定労働時間外勤務への割増賃金支払いの実施など、一般の企業並みに、サロンの職場環境をよくするためには、「ビューティプラン」提案による売上高の確保は、非価格志向のサロンには必要不可欠なものとなると考えられます。

5.これからの美容室事情
・今後の美容室はこうであるべき!?

1)お客さまとの密着が問われる時代

(1)地域密着の必要性の経済的背景

先日、発表された国の統計では、貿易収支が31年ぶりに赤字となりました。真剣に考えるべき発表だと思います。日本の産業構造が完全に変わって、このままではいけないという知らせです。
昨年は、東日本大震災があったり、タイで洪水があったり、日本の工業製品の生産基地が大きな打撃を受けたという特殊事情はありますが、構造的に産業のあり方、日本の進むべき道が問われていると考えられます。
戦後、日本は貿易立国を目指し、世界から材料を仕入れて、欧米を中心とした世界へ輸出するという形を整え、驚愕的な発展を実現し、世界第2位の経済大国に成長しました。1980年、石油危機の影響で貿易赤字を記録したのを最後に、31年間も連続で黒字となりました。その途中経過で、1985年にアメリカの圧力でプラザ合意という、円高が容認される国際的な流れが出来上がり、激しい円高不況も起こりましたが、何とか黒字を維持してきました。
しかし、この円高不況を乗り切るために、各企業が行なった「資源の海外移転」がやがて、産業の空洞化を産み、消費礼賛がバブルも産み、その結果、バブルが弾け、雇用が失われ、地域の経済体系が破壊され、今日のような都会への資源集中の経済となってしまいました。その都会も失業者が増加しています。
90年代後半から2000年代にかけて、政府がいくら赤字国債を発行して景気を支えようとしても対処療法に終わり、自力での経済回復は実現できませんでした。日本が不況の間に、間違ったリストラを行なった結果、優秀な日本の技術者や職人の多くが中国や韓国に行ってしまいました。そして低価格で高品質な製品が出来上がるようになり、韓国企業の復活、中国の世界の工場化が実現し、激しい国際競争となり、日本製は市場から追い出されることとなりました。
一方、日本の経済がバブル崩壊以降、なんとかここまで持ちこたえることが出来たのは、アメリカの消費が立ち直ったことと、アジアが豊かになり、消費が拡大したことにあります。もし、バブルが崩壊したとき、同時にアメリカもアジアもダメなら、貿易立国の日本はすぐにでも崩れていたかもしれません。もし、日経平均株価が続落を続けているときに、リーマンショックだったら?と考えると、もっと恐ろしい状態になっていたと思われます。
しかし、今、世界は、その恐ろしい状態の一歩手前にいるかもしれません。日本は、相変わらず、はい上がれない状況の中で、大震災を経験し、その復興の為に、復興のための国債を発行します。また、ギリシャ危機を発端にしたヨーロッパの経済危機は、ますます怪しくなるばかりです。その上、中東に進出する軍備の為にアメリカは大量の国債を発行し続け、さらにまた、イランと争う構えを見せています。
誰が、この膨らみ続ける借金だらけの世界経済を正常化できるでしょうか。現在、世界中の借金は、世界全体のGDPの約8倍はあると言われています。どこかで急激で大規模な借金の精算(債務不履行)が行われるかも知れません。その可能性は十分にあります。その急激な精算のキッカケは、ヨーロッパではなく、ひょっとしたら、中国経済かもしれませんし、世界がジャパンプロブレムと読んでいる日本経済かも知れません。
中国も今、バブルです。上海の高級マンションは、東京の約10倍と言われています。これまでの経験で分かったことは、バブルはやがて弾けるということです。今、中国のバブルが大きく弾けると、困るのは中国のみならず、大量の国債を中国に引き受けてもらっているアメリカです。アメリカは国債を発行して産業と消費を活発化している国です。かつての日本の様に、中国のバブルがはじけて、アメリカの国債を引き受ける力が弱まると、アメリカの産業、消費も弱ります。困るのはアメリカだけでなく、そこに多くの商品を輸出している日本やアジアの国々です。
日本も需要を喚起するために、未だにハコモノを作る政策をしています。(政権が変わっても、走り始めた大型建設事業が止められないのはどういうことでしょうか。分かった瞬間に国民は冷めてしまいました。)もう限界があることは多くの国民が知っています。
かつて、貯蓄率が高いと言われた日本ですが、現在、日本の若者の、どれくらい貯金が出来ているでしょうか。たった2%だという数字もあるように、消費を喚起しても、応えることが出来るのは、ローンや教育費を払い終えた団塊世代以上の人々だけです。その人たちも防衛本能が働き、もはや広告には踊らなくなってきています。若者は、就職できなくて、奨学金の返済ができないという事態も見られるようです。(私が講師をさせていただいている専門学校の学生も奨学金を受けています。心配でたまりません)
いいときは非常にいい効果を出すグローバリゼーションですが、ここまで、世界中が借金であると、悪い影響も一気に全世界中で広まるのも、グローバリゼーションかと思います。かつて、世界を大きく駆け巡ったブラックマンデーは、日本のバブル経済で止まりました。今回のリーマンショックも、中国やアジアの国々、ロシアなどの国々の経済成長に助けられた感じです。しかし、次の大きな借金の精算はどこの国がそのショックを和らげることが出来るでしょうか。
今、世界の各国は、自国の通貨の価値を下げて為替で有利にして、輸出を増やそうとしています。どれほど圧力がかかっても、中国が元を切り上げないのも、その一つです。しかし、円は政権の無策で、無防備状態で、1ドル=70円代が定着化してしまいました。日本を支えた輸出企業は、さらに海外移転を余儀なくされています。
この先、ますます空洞化が進み、地域の経済は弱体化すると予測されます。さらには、国際的な大きな借金の大きな精算の影響が来るのではとも考えられます。そうなれば、種々の国際的な相場は乱れます。既に「有事」の金は急騰しています。この意味を考えなくてはなりません。敏感なお金持ちは、価値が確かな「金」に逃避し始めているということです。価値が確かなものでは、原油や穀物もそうですが、原油も上がっています。やがて、穀物の相場も上がる可能性があります。世界的に人口が爆発的に増加しています。穀物が、良く儲かるバイオエタノールに使われてしまうことも影響大です。自給率の低い日本が被る影響は大きいと言わざるを得ません。少しの気象の変動でも穀物相場は大きく変化します。今は、気象の変化より、ヘッジファンドの気持ちの変化の方が恐ろしいです。大震災のあと、関東のスーパーマーケットから、パンや米などがなくなった光景が蘇ります。
もう一度、輸出に頼らないで、国内で生産されたものが、国内で消費される循環システムを作り直し、自立できる経済を復興すると共に、それを担う人材の育成と、モノではなく、日本の文化を輸出できる人材の育成が必要になってくるのではと思われます。「教育立国」としての再生です。
それを実現するには、まず、産業の空洞化と、行き過ぎた個性主義、自由主義でバラバラになってしまった地域のコミュニティを取り戻し、地域で循環できる「小さい経済」を立て直すことから始めなければなりません。その地域の「小さな経済」の中心は、地元の農業かも知れません、漁業、林業かも知れません。また、軽工業かも知れません。流通業かも知れません。
大切なのは、「価値」を確かなモノにして、その価値を人々に伝えて理解してもらい、消費者に使っていただくことです。今、日本の企業にとって、「市場」は奪い合うものではなく、「市場」は創るものという事を再認識しなくてはならないです。どうすれば地域の人々、日本の人々に必要とされるのか、「価値」を創造できるのかを考え、行動しなければなりません。(生きていくための絶対的な価値とは何かを考えること)
最近、大手総合スーパーチェーンなどでは、「地産地消」というキーワードで、地元の生産物を仕入れて地元で販売するという地域密着型政策がとられるようになっています。彼らの経済活動の理論的支柱であったチェーンストア理論を追及すれば「地産地消」は非効率そのものですが、ここまで消費活動が高度化・多様化し、安全、安心を求めたり、地域を大切にしようとする動きが活発化すると、一般的な価格訴求だけでは、消費者が振り向いてくれなくなりました。グローバル化が進むことにより、逆にローカル化という意識が生まれて、チェーンストアの正統的な理論だけでは、店頭に魅力がなくなることが分かりました。消費者が求めているのは、単なる安さではなく、「高くても買う・・・安全で近くで取れて新鮮さがキープされて、生産者の顔が見え、かつ環境にも配慮されていれば」ということであると考えられます。
このように、地元の商品を愛する、地元のフレンドリーなサービスを受けたいなどのニーズは、徐々にではありますが確実に芽生えてきています。
海外には同じようなモノで「安い」ものがあります。一見、同じ様に見えますが、アフターサービスも含めて、品質について、さらに見極める必要があると思います。また、将来の日本全体のことを考えて、その「購買のバランス感覚を教える」ことも重要なのではと思われます。
どこか、お客さまの将来のヘアケアの事を考えて店販品を売る美容室のスタッフとダブって見えるのは気のせいでしょうか。

(2)地域密着の重要性

上記のように、ここまで来たグローバル化の危険性から、地域密着がこれからの小売業やサービス業経営で、重要なものになることは理解されると思います。特に、美容室では、改めて、地域の消費者に来店していただいているという意識を持ち、自店のサービスの価値を分かっていただき、来店していただくことを心がけ、地域とつながる努力をしなければなりません。そのための意識しなければならないポイントとして、2点挙げられます。

① お客さまは、安心・安全・親しみを求める

消費者には、これまでの経済的危機から「安心を求めたい・絶対損したくない」という心理が強くあります。それを地域や店舗で満たしてあげなければなりません。当方が全国で独自に取っている顧客アンケートのデータでも、美容室に求めるものとして、「安心感」や「親しみ感」という意見が強くなってきています。また、「親しみ感」と「満足感」=「売上」には大きな相関関係があることが分かっています。

② お客さまは、近くの美容室を求める

最近のサロンの事実として、「上位のお客さまで、60歳以上のお客さまの浮気」が見られるようになったことも地域密着の重要性を裏付けます。複数の店舗でのポスティングの結果から、意外と60歳代のお客さまが増えたことがわかりましたが、理由は、「これまで、行きつけの店が合ったが、遠いので面倒になってきた」「いつも行っているところは、階段を上がらなくてはならないので、大変だからやめや」ということです。
以前はあまり見られない意見でしたが、団塊世代より上のお客さまの「体力」の問題が出てきました。これら年配のお客さまは、来店頻度も高く、また、白髪染め、パーマなどもしていただける客単価の高いお客さまです。VIPになっていることもあります。人口のボリュームも多く、美容業界を支えていただいている層ですが、これらが動き始めたことは注意すべき点です。60歳代のVIPが、しばらく来ないなと感じたときは注意しなければなりません。自店のVIPの流出もありますが、他店のVIPも流れてくる可能性があることを知っておきましょう。

このように、今後さらなる高齢化や所得格差の進展が予想される中、地域密着の重要性がさらに増大します。それらの環境変化が生み出す嗜好の多様化、諸種の要因が絡む消費行動の地域差などの課題を解決するには、それらの地域にどれだけ精通できるか、それに対応できるかが重要となってきます。

(3)顧客分布から見る美容業の地域密着の重要性

(港区某美容室)

(千葉県某美容室)

左の2枚の地図は、港区南青山にある美容室と、千葉にある美容室のお客様の居住地をマッピングしたものです。(匠技研マップソフトにて作成)
赤い線はそのお店から電車で45分の範囲を示す線です。港区のサロンでは、その線の中に入るお客様は全体の約75%に達します。一方、千葉のサロンでは、電車で45分の範囲に入るお客様の割合は82%です。港区のサロンより地域との密着性が高いと言えます。しかし、どちらも電車で45分の範囲にほとんどのお客様が収まります。美容室の商圏は、電車で約45分までの範囲であり、青山のサロンのように多少、遠方から来るお客様が多いといえども、その範囲は限定されるということが確認できます。
特に千葉のサロンでは、電車で20分のエリアの中でお客様全体の51%を含みます。(中心への密集度が非常に高い)
改めて、美容業は地域密着で基本的な売上高を確保しなければならないことが分かります。

(4)美容室の地域密着活動の現状

具体的に美容室が地域に密着するということは、どういうことでしょうか。日ごろ、サロンの仕事で外に出ていけないことが多く、なかなか地域の人と、サロン以外で出会うことはありません。サロンの仕事だけを考えていると、地域の他の人のことまで考えられないのが実情です。しかし、先ほど見たように、サロンの多くのお客さまが地域の人たちです。これらの地域の人たちに来ていただかないとサロンが成り立たないことを知るべきです。美容業界では、このことを軽視している経営者が意外と多いことに寂しさを感じます。

ここで、地域活動への参加例として、2点挙げたいと思います。まず1つ目は、東京・新宿の某美容室の例です。そのエリアでは毎年、8月下旬になると「納涼祭り」が開催されます。日頃、忙しくしているスタッフたちですが、その日はやや早めに仕事を切り上げるように経営者が指導して、浴衣に着替えて「納涼祭り」に参加するようにしています。スタッフが積極的に運営に参加したり、イベント会場に顔を出したりすることによって、自分が地元で美容師をしていることを知っていただき、結果的に新規のお客様の獲得に成功しています。また、その場で既存のお客様と出会うことも多く、それがキッカケで地域の影響力の強い人(口コミリーダー的存在)にも出会ったりしているようです。さら、サロンでも「浴衣祭り」を行い、大人¥3,675で、ヘアメイク&着付けを行うなど、地元密着度を上げるべく、積極的に地域イベントを活用しています。
2つ目は、埼玉県北部の某美容室の例です。成人式の着付けを担当した某美容室のオーナーが、実際に自分のお客様の成人式に出席しました。その日は非常に風が強く、そこで、せっかく念入りに仕上げた着付けが台無しになっているお客様を発見しました。その場で修正してあげたところ、自分の友達も修正してあげて欲しいということになり、たくさんの友人たちが詰めかけ、修正大会になったようです。それをきっかけに毎年その成人式会場の片隅にブースを設け、ボランティアで修正してあげる事になりました。新規のお客様がそれを機会に増えたことは言うまでもありません。

(5) 「おしゃれ」を伝える重要性

美容室のスタッフの役目は、お客さまのライフスタイルの変化に対応しながら一緒に人生を歩み、そのお客さまの人生の転機(ライフステージの変化)に、しっかりサポートさせていただくことです。そのために、スタッフは、目の前のお客さまに最大限の関心を持ち、美しくなる技術を通して、外見的、さらに内面的に支えていく能力を養う努力を、毎日しています。その努力している事の中の1つに、「おしゃれ」があります。おしゃれが上手くいけば、周りの人から関心をもたれ、褒められます。そうすると、認められた気がして、非常に嬉しく、すごく幸せな感じになります。この素晴らしさをお客さまに伝えなくてはなりません。

お客さまから支持いただいているスタイリストは、常に「おしゃれ」です。お客さまも、おしゃれになることを望んでいるので、それを提案するスタイリストは、お客さま以上におしゃれでなければならず、おしゃれに対して興味を持ち、実践しなければなりません。お客さまがわざわざ「おしゃれ」をして来ていただく場所になれば、最高です。
一方、お客さまの思いも様々です。おしゃれを教えて欲しい、リラックスしたい、、といろんな思いがあります。その思いを感じて、どんなお客さまにでも対応できることが、地域密着のサロンであると言えます。
また、オシャレに関しては、その人に本当に似合う装いと、本人の望む装いは一致しない場合もよくあります。ある程度、本人の望みが決まっているお客さまには、当然、お客さまの意見に合わせていく事が基本ですが、その後、お客さまと確固たる信頼関係が築かれ、本当にお客さまのチャームポイントが分かったとき、また、心から変えて綺麗にしてあげたい思ったときに、その方向に導いていくこともスタイリストの仕事です。
そのためには、本当に似合う装いや、少しアレンジするだけで、お客さまが綺麗になる方法を知っていなければなりません。実は、これを養うことが大変です。
実際には、メーカーやディーラーから臨店講習を受けて、ファッションや表現テクニックを勉強しますが、これだけではお客さまに「おしゃれ」を提供することは無理です。断言します。自ら、街に出かけて、いろんな店舗を見て、試着したり、思い切って買ってみたり、ファッション雑誌を買って、気になるファッションをスクラップしたりして、自分の感覚で記憶しなければ、ほとんど身になりません。また、「おしゃれ」は、洋服だけではなく、ライフスタイルもおしゃれでなければ、周りに発する雰囲気を醸し出すことができません。
人間の行動は、かつての自分の五感を通して記憶した行動に基づいて行われます。いい経験をすれば、いい行動が出来、他の人にも伝えることが出来ます。従って、「おしゃれ」を実現するためには、本物の「おしゃれ」「粋」に出会い、体験する事が望まれます。そのためには、常日頃から、

●目は良いもの、美しいものを見る
●口は体に良いものを食べる、一流の料理を食べる
●耳は良い事を聞く、良い音楽を聞く
●鼻は良い匂いを嗅ぐ、美しいものへの嗅覚を養う
●皮膚は良いものに触れる、良い服を着る

を実行して、いい記憶をインプットして、お客さまにアドバイスできるようにしなければならないと考えられます。

(6) テーマパーク化

自らのセンスを養うためには、日常から五感に良いものに触れることが一番です。そのために、地元地域からセンスアップ出来る場所をピックアップしておくと便利です。
見た目が可愛くて、いい生地に触れることができる洋服店、美味しい料理をいただけるレストラン、いい音楽を聞ける喫茶店やバー、いい香りが楽しめる雑貨店や花屋さん、センスの良い本が沢山ある書籍店などに通い、店員と話をしながら、いつもいいモノに触れる習慣を付けて、センスを磨きます。
また、そう言ったことが好きな店舗と協力し合いながら、お互いのセンスアップを図ることも重要となってきます。
良い店舗であれば、そこにお客さまにも案内し、お客さまのセンスアップにもつなげます。また、お客さまが、その店舗に行ったり、店舗の人たちとの交流が出来たりすることにより、その店舗のお客さまもサロンに来ていただくきっかけになります。
センスを磨くために、地域のセンスのいい店舗と交流を行うことによって、同時に地域に密着した活動が可能となってきます。
店舗が地域に溶け込むには、このような方法があることを紹介しましたが、これらの動きを、経営者自ら行うと、その意義は大きくなります。経営者が他の店舗を訪れれば、その店舗の経営者と会うことが出来、可能性が広がります。そこで、ビジネスライクな話が出来れば、互いの利害関係を考えて、お客さまの共有化も図ることができます。
センスのいい店が1店舗でも多く仲間に加わることによって、潜在顧客数は広がります。先ほど、商圏のところで述べた様に、地域のお客さまの行動範囲は、広くても移動時間20分です。この範囲のなかで、互いがシナジー効果を産む店舗と連携し、販売促進を行えば大きな効果を産むことができれば、個店のみならず、地域の活性化にもつながります。
新潟のあるサロンでは、実際によく似た取り組みが行われて、新規の数が増えたという報告を聞いています。
<新潟県村上の某サロンの例>
協力各店鋪にPOPと説明のパンフレットを置いてもらう。また、説明してもらう。来ていただいたお客さまには、普通の料金で各グレードアップのサービス(カラー・パーマ・スパ)
紹介していただいた店鋪は、居酒屋、懐石料理、レストラン、ケーキ店の4店舗。日頃の約3倍の新規客数が確保できた。

このように、協力関係にある店舗を増やし、ミーティングを開きながら、的確にお客さまに知らせることによって、効果があることが分かります。これらの動きが、ある一つの理念によって統一化されるとさらなる展開に発展すると考えられます。ある理念を掲げ、心身ともに美しくなることを掲げれば、地域全体が「美」のテーマパーク(ビューティパーク)となり、1軒1軒がパビリオンとなります。
1名の新規のお客さま開拓に要する費用は、既存のお客さま1名を維持する費用の約5倍かかるといいます。また、競合が激化している状況下では、既存のお客さまの満足度を高めることが最重要となります。お互いの、いいお客さまを紹介し合うこれらの取り組みは、これからの地域の美容業界発展の一つの大きなきっかけになると思われます。いいネットワークを先に構築したところが優位に立つことは間違いないでしょう。

(7) 地域貢献の重要性

店舗間がネットワークで構築されると、より地域とのつながりが密になります。結ばれている店舗のお客さまとのコミュニケーションも増え、実際にその地域で困っている課題にも直面すると思われます。そうなったときに、店舗として何が出来るか、美容師として出来ることは何かを考えて、自分たちの経営資源(資金、時間、人員、設備など)を地域に有効に使っていただくことが大切になってきます。決して無理することはありませんが、少しの時間や資金、手間をかけて、地域に貢献することによって、地域の人たちに、店舗に対する信頼が生まれます。同時に、スタッフの誇りとなります。これを何年も継続することが重要です。
地域経済は疲弊していますが、上記のように、何か、市場を創りあげ、また、創ろうとしている人を応援し、貢献することによって、希望の光となるように、美容室はリーダーシップをとっていくべきでしょう。

(8) レセプショニストの可能性

最近、話がよく出るようになったのは、レセプショニストの大きな可能性についてです。海外のサロンでは当たり前のようですが、レセプショニストがお客様をアテンドし、サロン全体の満足度を上げ、かつ、美容業界での新しい、スタイリスト以外の活躍できる職種として、価値観を向上していこうとする動きです。サロンによっては、コンシェルジュと読んでいるところもあります。ハサミを持たなくても、お客様の一生のビューティプランナーとして、活躍しているレセプションの方も増えてきています。
これらを体系化して、一つの資格制度にしているNPOもあり、今後の展開が注目されます。

JBCA 日本ビューティコーディネーター協会

http://www.jbca.jp/

 

(9) 訪問カットの可能性

市場的には、「福祉的要素」が強い分野ですが、他の業界を見てもわかるように、シニアターゲットとしての訪問切り口は「あり」です。
次回、第2段レポートの中に、訪問カットの可能性も織り込んでいきたいと思います。

 

<お知らせ>

ビューティサービススーパーバイザーアカデミー プレスリリース

平成26年4月11日に、私も専任理事として参加させていただいている
ビューティサービススーパーバイザーアカデミー(BSA)の、
記者会見が、浜松町センタービルの6階 フクラシア浜松町で行われます。
テスト期間を経て、正式に2014年5月からスタート。

複数の店舗を管理するスペシャリストの養成アカデミーです。

統括店長の方は、ビューティサ

自己紹介

1995年
経済産業省認定 中小企業診断士 登録
2000年
ハタナカマネジメントオフィス 設立
ファッション業界、美容業界を中心に、現場ですぐに役立つ提案と支援を得意としています。
最近では、社会保険導入に関する賃金・給与制度の見直し、社労士とコラボによる就業規則の作成、チームワーク改善、強みの武器化のコンサルティングを行っております。

2013年~2023年現在
国際理容美容専門学校 マーケティング講師
2014年
JBCA(日本ビューティコーディネーター協会)1級テキスト作成、アイコーディネーター検定2級テキスト作成

2018年2月 「誰も教えてくれない、経営の秘密。」(髪の文化舎)出版

2020年 JBCA(日本ビューティコーディネーター協会)サロンマネジメント テキスト作成

スタイリングマップ講習のご案内

日本ファッションスタイリスト協会が主催しているスタイリングマップは、美容室のマーケティングでは、シンプルで最強のツールになると考えられています。

それに気がついているサロンのオーナー様はまだ少数です。スタイリングマップは、色、形、素材で、それぞれが4つのタイプに別れます。基本的に、パーソナルカラーが軸となっています。これに、さらに造形心理学と素材感がまとめて統一して体系化してあります。

これまで、ありそうでなかった理論で、ファッション&美容の業界ではノーベル賞級の発見です。最近では、それに、行動、感情、対人タイプが重なることが分かり、似合わせのご提案はもちろんのこと、パーソナルな接客まで役に立つ理論です。曖昧なところが非常にロジカルに似合わせが可能になります。

<スタイリングマップについて>

https://stylist-kyokai.jp/

現在、当方はこのスタイリングマップを導入していただき、全身の似合わせが出来るようになることで、美容室でお洋服販売する取り組みを行っております。

1日に40万円以上のアパレル商品を販売するサロン様も徐々に増えております。

アパレル企業さまでは、昨今、商品を貸し出してくれるメーカー様は減少しておりますが、当方のアパレル業界でのネットワークで、好条件で売れる商品を供給していただけるアパレルメーカー様を2社開拓しております。

もし、こういった件でも、ご興味がございましたら、是非、当方までお問い合わせくださいませ。

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